「今日は王子がおやつ用意してあげる。」
気分屋な私の王子様は、そう言って部屋から出て行った
ベルが突拍子も無いことを言うのは今に始まったことじゃないけど
さすがに今回の提案には驚いた
怠惰の王子様が自分から3時のおやつを準備するなんて…
最初は少し不安だったけど、部屋に戻ってきたベルの後ろには楽しそうなルッスが一緒だったから一安心
「あ、ルッスも一緒だ!」
「…オカマが煩かったんだよ。オレは2人が良かったのに。」
「んも〜っ!少しお邪魔するだけじゃない!1杯頂いたら帰るわよ!」
「じゃあ、これ飲んで帰れよ」
「まだお湯じゃないの!何言ってるの!」
「オカマはこれで十分だろ」
「ベルちゃんったら酷いわ〜!借りてデートしちゃうわよ!」
「…殺す」
「冗談よ!私だって長生きしたいんだから〜」
二人で漫才を繰り広げながら徐々におやつの準備は整っていく。
匂いを嗅ぎ付けたのか、外で遊んでいたミンクが窓の外から部屋を伺っていた。
少しだけ窓を開けてみれば、私の肩に飛び乗って少し違う雰囲気の部屋をキョロキョロ見渡している
「ミンク…お前もに余計なことしたら匣に戻すから」
「あんまりミンクいじめないでよ」
「…キィ」
しょんぼりしたミンクを肩に乗せたまま、一緒におやつの準備を観察
ルッスが用意してくれたであろう可愛らしいティーセットが並べられている
温めていたティーポットに器用に茶葉を入れてお湯を注いでいく異国の王子様は完璧という言葉でも足りないくらいで
てっきりルッスに全部任せるのかと思っていたら、道具を用意させるだけで準備は全部ベルが一人で行っていた
予想外の手際の良さに驚きながらも、期待に胸を膨らませて観察を続行
「どうしたの?」
「え?」
不意にベルから声を掛けられて、驚いた声を出してしまう。
まさかルッスの前で手際の良さに見惚れていたと言うわけにもいかないし…と考えを巡らせていると
いつのまにか目の前には、子供みたいな笑顔で私の顔を覗き込んでいるベルが居た
この状況から逃げ出せないことを悟って、無言を貫いていると、状況を悟ったミンクが私の肩から逃げ出した
「もしかして、見惚れてた?」
「…そ、そんなこと…ない…」
「ウソツキ」
そう言って私の頭を撫でると再び準備に戻る
近くで様子を伺っていたミンクが再び私の肩に戻ってきたので、また観察を続ける
「はい、出来たよ」
目の前に用意されたミルクティーとスコーンの甘い匂いに思わず笑みが零れる。
肩で様子を伺っていたミンクも匂いに我慢出来なかったのか、テーブルの上でスコーンの匂いを嗅いでいる。
「それはのだからダメ。お前はアレでいいだろ」
床に置いてあるミルクを指差して、ミンクをそっちに誘導する。
主人の命令に従ってミンクは颯爽とテーブルから降りて用意されたミルクを楽しみ始めた。
「いただきます!」
「召し上がれ」
口の中に広がる甘味に今まで以上に心地良い気分になる。
「美味しい?」
「うん」
「ししっ、スコーン付いてるよ」
「…え、どこ?」
「いいよ、取ってあげる」
私の口に付いていたスコーンを有無を言わさずに取り上げて自分の口に含む王子様はとても楽しそうで
羞恥心に襲われた私は、そのまま数分で紅茶とスコーンを完食してしまった
「ご、ごちそうさまでした」
「また気が向いたら用意してあげる」
「今度は私が用意する」
「王子のおやつはでいいんだけど?」
「お断りします」
「…ちぇ、つまんないの」
ソファで寛ぎながら不貞腐れ始めた王子様の機嫌を直す為に
思い切り抱き付いてみれば、少し驚いた素振りを見せたけど
逃がさないと言わないばかりに、力強く抱き寄せられた
まあ、今更この人から逃げるつもりなんて全く無いんだけど…
『あらあら〜すっかりワタシ空気じゃないの〜』
『あ、ルッス、いや、これは…その…』
『もう終わったから全部持って帰れよ。邪魔すんな。』
『はいはい、後は若い2人でごゆっくり〜』
『ちょ、ちょっと待っ…行っちゃった…』
『だって邪魔でしょ。オレと2人はイヤなの?』
『ミンクがいるよ』
『…ミルク飲み終わったら匣に戻す。』
『キィ!』
(甘い時間の後には、とびきり甘い幸福を)