「こーよー」

平仮名を彷彿させる言い方で彼を呼べば怪訝そうな顔でこちらを向く。

「何だ?」

眼鏡の奥からは明らかに不機嫌なオーラ。
赤い目が少しだけ歪んで見えるのは、多分その眼鏡のせい。

「そこ、間違ってるよ」

「…何処?」

「いや、だからその式全部」

「…え?」

一生懸命勉強に取り組む紅葉の姿は、カッコイイと素直に思う。
だけど、その姿勢とは裏腹に紅葉の頭は空っぽで、見た目に騙された人は彼のテストを見て驚愕する。
もちろん、私もその1人だった。

「…御バカ様」

「う、うううるさい!」

「これは此処の公式に当て嵌め…」

「こっちじゃないのか?」

「それは前の問題でしょー」

「…」

「んで、これを使えば…」

「…

不意に真剣な顔付きでこちらを睨む紅葉の顔は嫌いじゃない。
寧ろそんな顔を見せるのは自分だけどということに優越感を覚える。
見た目がこんなガリ勉だけど、そんな見た目とは裏腹にボクシング馬鹿でスポーツマン。
紅葉は学校でもそれなりに人気者なんだ。
本人は全く気付いてないみたいだけど…。

「何?」

「キスしようとしただけだ」

「此処、学校なんですけど」

こんなことを真顔で言う紅葉も嫌いじゃないけど…
もう少し周囲を気にしてほしいと思う。
此処は補修室で今は補修の時間で周りには紅葉と同じで補修してる人が何人か居る。
私は別に赤点じゃなかったんだけど、先生に紅葉のことを頼まれたわけで…
大体、紅葉が手に負えないからって私を呼ぶ先生もどうかしてる。
先生が手に負えないのに平均点しか取れない私が手に負えるわけないんだ。

「じゃあ、僕の家で補修してくれないか」

、お前もう青葉連れて帰っていいぞ」

「えー」

「許可が出た」

「えー」

「お菓子奢るから」

「1000円分で手を打とう」

「…分かった」

そんな風に思っても紅葉を他の人が世話するなんて嫌だし紅葉もそんなこと望んでない。
以前、冗談でアーデルハイトに教えてもらえば?って言ったら物凄く怒られた。
理由は分からないけど、紅葉はアーデルハイトが苦手らしい。
私は好きだよ。巨乳だし。触ると怒るけど。

「結局、僕こそがの恋人に相応しい!」

「あはははは」

「そこは笑わないで僕に思い切り抱き付くべきだ!」

「こーよーきもーい」

「何だと!?」

補修生の痛々しい視線を浴びながら帰り支度して、補修室から出て行く。
廊下で擦れ違ったアーデルハイトが私を見て笑ったような気がしたけど、紅葉が足早に進むから挨拶出来なかった。

「アーデルハイトが笑ってた!気がする!」

「どうでもいい」

「アーデルハイト超可愛いー!」

「それ以上言うとキスして口塞ぐ」

「こーよーきもーい」

「…」

補修開始前より更に怪訝そうな顔をして、こちらを睨み付ける紅葉。
カッコイイ…と思うけど、何か違う。


「私は紅葉の笑った顔が好きだな」

「じゃあ、僕を笑わせたらいい」

「どうやって?一発ギャグ?」

「こうやって…」



あー…こうゆう紅葉も嫌いじゃないかも。
寧ろ若干カッコイイと思ってしまったのが、何だか悔しい。

「セクハラ!セクハラセクハラ!」

「僕が笑ったんだから満足だろう?」

「うるせー!御バカ様のクセに生意気だ!」

「生意気とは何だ!キスくらいで騒ぐな!」

「黙れ!アーデルハイトに静粛されろ!」



鞄で紅葉の頭部を攻撃してから、私は足早に紅葉の家に向かった。
もちろん、頭を抑えて蹲る紅葉はそのまま放置。
あと5秒後に痛みが和らいだ紅葉が全力で追い掛けてくるんだ。
今のうちに距離を開かないと後が怖い。



「っ…僕を…ボクシング部を舐めるな!」

「ぎゃー!」















(青葉紅葉と書いて体力自慢の愛しい愛しい御バカ様)