「…アイス買ってきて」

偶然通った黒曜中の前で、そう呟いた華奢な男に現金を渡された。










「柿ピーは私に買い物を頼んでるのかな?」

「他に頼む人いないから」

いつもの声色で、面倒臭そうに返事をする千種。

これは、所謂パシリっていう行為じゃないのかな…。

「パシリってことだよね?」

「そうだけど…」

至極当然のように返事をする千種に脱力感を覚えながら、渡された現金を確認する。
私の手には鈍い銀色をした100円玉が3枚。
コンビニで売っているアイスの値段は120円。

「コンビニの120円アイスで良いんだよね?」

「それで良い…」

もう一度手元の現金を確認する。
やっぱり100円玉が3枚。
でも、アイスの値段は120円。

「柿ピー、200円あればアイス買ってお釣り貰えるよ。」

「知ってる」

「でも、私の手元には300円あるんだけど…」

の分は入れてないの?」

不思議そうな顔で私を見る千種。


その顔を可愛いかもしれないと思ってしまった私は、末期なんだろう


人をパシリにする男が可愛いなんて、普通思わないだろうし…。



「今、何て言いました?」

の分も計算に入れてないのかって聞いたんだけど…」

「それは私も買って良いってこと?」

「…馬鹿なの?」

「確かに成績は悪いけど…」

「…買うの買わないの?」

「あ、買ってくる!買ってきます!!」





そう返事をして颯爽とコンビニに向かう。

ちなみに黒曜中から徒歩30秒でコンビニには到着するわけだが…
その距離すら"めんどい"で片付ける柿ピーは色々な意味で大物かもしれない。














「アーイスアイスー」


「おや、じゃないですか」

コンビニに入った途端に聞き覚えのある憎たらしい声が聞こえた。
気のせいだと祈りながら後ろを振り返れば…


「…骸さん」

「こんな所で会うなんて奇遇ですね」

「そうですね」

「もしかしたら出会う運命だったのかもしれませんね」

「あはは、そうですねー」

ニコニコ安売り中の笑顔を向けて話を始める骸さん

手には期間限定と書かれたパイナップル味のお菓子
これだけ買い占めるってことは、やっぱり自覚してるのかな

「…お菓子と僕の頭を交互に見るの、止めてくれませんか?」

「す、すすすすいません!すぐ帰るんで!いや、もう本当にアイス買ったら帰るんで!」

そう言ってアイス売り場にあったアイスを適当に選んでレジに向かう。

「…千種は、そのアイス嫌いですよ」

「あ、そうなんですか…じゃあ別のアイスに…って」

「それくらい分かりますよ」

先刻の笑顔を崩さないで、アイス売場を眺める骸さん



「千種はこのアイスが大好きなんですよ」

「これ…ですか?」

「えぇ、それを渡せば千種も大喜び間違いなしです」

「じゃあ、私もこれにしようかなー」

「おや、も買うんですか?」

「柿ピーが奢ってくれるんですよ」

「…なるほど」

そう行って店を出た骸さんの言葉の意味が分からなかったけど、千種の大喜び姿が早く見たくて急いでレジに向かった。

レジで300円渡して、お釣りを受け取って店外に出たら…



「あれ、柿ピー」

「千種はが遅いので様子を見にきたそうですよ」

そこには千種と両手に袋を抱えた骸さん
その袋の中身は見なくても理解出来たから触れないことにした。

「…遅い」

「あ、ごめんね!はい、アイス」

「…これ」

差し出したアイスを見て千種は少し驚いた顔をする。

「骸さんに聞いたんだけど、好きなんでしょ?」

「…骸様」

「さて、僕はチョコレートが溶けないうちに帰らせてもらいますよ。Arrivederci☆」



そう言って軽やかなステップで帰る骸さん

隣には、それを複雑な顔で見送る千種



「柿ピーどうしたの?」

「…アイス」

「アイス?」

「これ、苦手」

「えぇ!!骸さんが柿ピーはこれが好きだって…」

「騙されたんだよ」

「あのパイナップル頭…」



ふるふる怒りに震えていると隣からビリッと袋を破る音

目を向ければ、袋からアイスを出して食べ始める柿ピーの姿

「ちょ、嫌いなら食べなくても…」

「別に食べれないわけじゃないし」

「…」

こーゆうところが好きかもしれないと思いながら、私は自分のアイスを袋から出す。

「これも捨てといて」

「はいはい」

千種に差し出された袋と自分の袋をゴミ箱に思い切り投げ入れた。














(君と食べれば苦手も半減)





(君と過ごせば退屈も半減)