「…お前、誰?」







いつもと変わらない大好きな声で、そんなこと言わないで







「何、それ…笑えないんだけど…昨日のこと怒ってるの?」

「昨日?何したの?」

「…怒鳴りつけてベルの顔面に枕投げ付けた」

「サイアク」

「覚えてないの?」

「てか、お前のことも覚えてないんだけど」




苦笑する様子も、全部が全部同じなのに、やっぱり違う

自分の知ってるベルは、冗談でもこんなこと言わない


だって私が泣くのを知ってるから







「泣くなよ。オレが泣かしたみたいじゃん」

「…ベルが泣かしたんでしょ」

「お前が勝手に泣いたんだろ」


そうやって突き放すところも変わってない


だけど、目の前にいるのはベルじゃない







「はいはい、泣かない泣かない」

頭を撫でてくれる仕草も全部一緒なのに全部違う

行動自体は嬉しかったけど、その違和感で涙が余計に溢れた


それでも、ベルはずっと頭を撫でてくれた





「いつまで泣いてんの?」

「うるさい…」

「疲れたから部屋戻っていい?」

「…別に頼んでないし」





「素直じゃないところは変わらないね」










…変わらない?




















「何で変わらないって知ってるの?」







「あ…」










珍しく焦った表情で固まるベル

それを泣きながら見上げる私





「…ベル?」

「…」

「…ベル?」

もう一度、名前を呼んでみる










「…オレがのこと忘れるとか本気で思ってたの?」

「だ、だって…」

が泣いた時は焦ったけどね」

「…何で?」



ベルは少し複雑な顔で私の頭をくしゃくしゃに撫でながら、外方を向いた



「…やっぱり怒ってたんだ?」

「枕痛かったし、王子悪くねーもん」

「だから、ジルには雨降ってたから風邪引くって言われて…」

「そーゆうの嫌だ」

「…ヤキモチ?」

「………」





昨日、任務で帰りが遅くなった時に偶然通り掛かったジルに屋敷まで送ってもらった

ベル曰くジルが偶然通り掛かるわけないし、予報で雨なんて言ってなかったみたいだけど…

そのことで夜中にベルと喧嘩して、顔面に枕を投げ付けて不貞寝してしまった



それでも、起きたら謝ろうと思ってた

まさか記憶喪失のふりなんて馬鹿みたいなことされるとは思わなかったし…










「任務が終わったら、オレが迎えに行くから」

「え、でも…」

「分かった?」

「…はい」

「いいこいいこ」

こんな風に子供扱いされても、心地良いのは貴方だけ










「でも、もう記憶喪失のふりは止めてね?」

「そんなに怖かった?」

「殺してやろうかと思いました」

「あ、それはそれで良かったかも」

「悪趣味」

「そんな奴を好きなの方が悪趣味」

「そーですね」





嫌いになれないことは分かっているけど

忘れられる可能性は否定出来ないから










もし、全部忘れてしまうなら










殺してしまう方が正解でしょう?









だって大好きなんだもん

















(きっと、もう戻れない)