「また喧嘩したの?」

「だってコイツが…」

「はいはい」

2人の言葉を受け流して、傷が残る額に絆創膏を1枚ずつ貼り付ける



「あ、絆創膏と消毒液なくなっちゃった…」

自室に置いてある救急箱の中身を確認していたら絆創膏と消毒液の在庫が見当たらなかった
救急箱の中身は常に把握してるつもりだったけど、目の前で不貞腐れている2人は想像以上に救急箱のお世話になってるみたいで、見落としていた

「じゃあ、オレが新しいの貰ってくる!」

「は?オレが先に貰ってくるから邪魔すんなよ」

そう言って再び火花を散らし始める

薬なんか廊下で擦れ違う使用人に頼めばすぐに用意してくれるんだけど…その言葉は敢えて飲み込んで、睨み合う2人を前に盛大な溜息を吐く

此処まで喧嘩が多い兄弟を私は他に知らない
同世代の知り合いなんて、この兄弟以外いないんだけど…



「…私が貰ってくる」

「じゃあ、オレも行く!」

「オレが行くから消えろよ」


そして、また火花を散らす

毎日こんなに喧嘩して疲れないのかなーとか、ぼんやり思う

思えば私が2人と出会った日にも喧嘩をしていたような気がする

まあ、この2人が喧嘩しなかった日なんて無いんだけど…


「昨日は投石だったよな…」

「今日は投岩だな」

「やめてください」

ニヤリと不気味に笑う2人の間に割って入り喧嘩を中断させる
このまま室内で投岩なんて、見付かったら大変なことになる

「…庭で投げるから平気だよ?」

私の気持ちを察してベルが優しく言ったけど、そんな簡単な問題じゃない


「庭でも何でも喧嘩は駄目だよ」

がそう言うなら…」

「何だよベル、逃げるのかよ?」

「は?」

馬鹿にしたようなジルの言い方に明らかに苛立ち始めるベル
…せっかく落ち着いたと思ったのに、余計なことをしてくれたと思いながら、もう一度止めようと試みる


「喧嘩とか…嫌いだな」

「じゃあ、止める!」

「喧嘩が嫌いでも俺のことは好きだろ?」

「…は?」

「そんなわけないじゃんが好きなのは俺だもん」

「じゃあ、勝った方がの王子だな」

「お前なんかに負けないし」

「負けっぱなしの偽者王子が何言ってんだよ」

私の返事を聞かずに勝手に2人で話を進めていく馬鹿王子


「あの、私の意見は無視ですか?」

「あ、は何で勝負したい?」

「俺は使用人殺した数でいいと思うんだけど…」

「駄目に決まってるじゃん!!!」

「「えー…」」

そんな時だけハモるな!と思いつつ、一応勝負について考えてみる

投石、投岩、投ナイフ…使用人殺害…全部却下!!!



うーん…と私が考え込んでいると部屋のドアが勢いよく開いた


「ジル様!ベル様!またこんな部屋で…」

「「げっ…オルゲルト…」」

「…あ」

息を荒げたオルゲルトが私を睨み付ける
正直言ってこの人は苦手だ…
ベルとジルを大切にしてるみたいから、私みたいな人間が気に入らないようで、酷いこと言われるし…怖いし…


「またお二人を誑かしていたのか?」

「ち、違っ…」

「だから私はお前のような何処の馬の骨かも分からない奴を城に住まわせるのは反対だったのです…お二人に何かあったら私は…」

頭上から罵声を浴びせられ自然と涙が出てくる
やっぱり、この人は苦手だ…




「…では、ジル様もベル様も自室にお戻りください。お勉強の時間ですから…」

そう言い残して、オレゲルトは部屋を出て行った
さっきまで聞かされていた罵声が耳にこびり付いて、涙が止まらなかった

「…泣かないで?」

「…あんなの気にするなよ、な?」

2人が慌てながら私を慰めてくれるけど、その言葉で余計に辛くなる



「…あ」

「いきなり何だよ?」

「勝負の方法思い付いたんだけど」

「は?今はそれどころじゃ…あ」


2人は何か閃いた様子で顔を見合わせる

涙目でも分かるくらいに、楽しそうな表情に背筋が凍りついたような気がする





「「オルゲルト倒した方が勝ち!!!」」





ニコニコ楽しそうな笑みを浮かべて軽やかに部屋を飛び出す2人

私が声を掛ける間も無く廊下からオルゲルトの絶叫が聞こえた





「…あれ、大丈夫かな…」

いつのまにか乾き切った涙を無意識に拭いながら盛大に溜息を吐いた






























オルゲルトには悪いけど、2人の楽しそうな笑い声が聞こえたから

思わず胸が暖かくなったような気がした










『最後は俺が決めたんだよ!』

『何言ってんだよ俺が決めたからは俺と一緒に昼寝するんだよ!』

『あはは…お疲れ様です…』

『わ、私はまだ…し、死んで…おりません…その女は…』

『げっ…生きてる』

『ベルがミスしたんだろ?』

『…お二人とも、今からお勉強が…』

『『よし、これから延長戦!!!』』


『うわっ、ちょっ…ぎゅああああああああああああああ!!!!!!!!!!!』

『…さよならゴリゲルトさん』










(君達は私だけの救世主)