嗚呼、これが心を打ち貫かれる感覚ですか

うん、そんなに悪くない



「好きかもしれない」

ぼそっと呟いた一言にも僅かに反応を示す

「あ?」

「ボスのこと」

既に恋人同士なのに今更好きかもしれないという曖昧な愛情表現

ボスという立場上動揺を態度に出すことはないが、若干複雑な気分になった



「前は好きじゃなかったのか?」

「声が裏返ってますけど」

…こいつには敵わないと思った



「そんなことより銃貸して!」

「壁ぶっ壊す奴に貸すと思うか?」

「あれは事故だって!今度は大丈夫!」

以前の大惨事を思い出して胃に痛みを覚えながら、の要求を拒絶する。

フィレ肉を1ヵ月食事のメニューから消されるなんて、二度とごめんだ。





「何か…こうさ…」

「あ?」

銃を奪うことを諦めたは右手を銃代わりにして、その手をザンザスの心臓部に突き付ける



「撃ち抜かれたなーって思いました」

「撃った覚えはねぇ」

「ヴァリアーのボスはバカですね!」

「本気で撃たれたいようだな…」

「冗談!冗談だから!」

ケラケラ笑いながら自分を小馬鹿にするを睨み付ければ、その視線に背筋が一瞬で凍り付いた

変わり者のヴァリアーを束ねているだけあって、その視線には他とは違う何か特殊なものが感じられた





「…それで?」

「え?」

「撃ち抜かれたっていうのは、どうゆうことだ?」

から視線を逸らして先刻の話を進める

どれだけ喧嘩や言い争いをしたことがあっても、にだけは自分の銃を向けたことはなかった

それを撃ち抜かれたなんて言われるのは、聞き捨てならない



「本当は撃たれてないんだよ?」

「当たり前だ」

「ボスが私に銃向けないの知ってるし」

…やっぱり全部筒抜けだ



「じ、じゃあ…何だ?」

「今度は噛みましたけど」

「…………」

「…ごめんなさい」



仕切り直して再び話を進める





「何か愛してるなーって思いました」

「ぶっ…」

「え、ちょ、ボスが麦茶吹いた!」

からの突然の発言に思わず口に含んでいた麦茶を空中に噴出する

愛情表現が少ないとは言い難いが、こんなにあっさり愛だの恋だの言われるのは正直まだ慣れない




「いきなり何だ?」

「麦茶垂らしながら言わないでくださいボスかっこわるい」

…ド畜生がぁ!!!!!!!!!!










「恋したらズッキュンみたいな?」

いきなり意味不明な単語と共に再び右手を銃代わりにして、ザンザスの心臓部に突き付ける

「全く意味が分からねえ…」

当然と言えば当然のように、ザンザスがその表現に頭を悩ませる

「本で読んだんだよー」

「本?」

そう言えば最近ルッスーリアに本を借りたと言って喜んでいたを思い出す

その時に本の内容を説明されたが、#nam0の顔が近くて内心動揺していたので、会話内容は全く記憶になかった


「ボスにハートを撃ち抜かれたなーって思ったんだ」

「やっぱり意味が分からねえ」

「バカだからじゃない?」

「銃で撃たれてみるか?」

「撃てないくせに無理しちゃってー」

「…はあ」

実際は撃てるわけないのだが、それでは自分だけ負けたみたいで悔しい


「…撃ってやるよ」

「え?」

至極楽しそうな笑みを浮かべてザンザスは右手を銃代わりにして、その手をの額に突き付ける


「…」

「…ボス?」

「…じゃあな」

「…へ?」

が行動の意図が掴めないままでいると、ザンザスが右手での額にデコピンを食らわせる

「ちょ、いったーい!」

ザンザスの突然の攻撃に涙を浮かべながらその場に蹲る



「油断してるテメェが悪い」

「赤くなったー!」

「あ?舐めときゃ治るだろ」

「ぎゃー!おでこ舐めるな!変態!」

「ぎゃーぎゃーうるせぇな…」

思わず耳を塞ぎたくなる様な絶叫を上げて暴れる#nameを無視して手元の銃に視線を向ける


「おい、

「何?謝っても許さないか…ら…っ!!!」

「………」

「…卑怯だ」

「あ?何だ?」

「ボスには絶対教えない!じゃあね!」


そう言い残して顔を真っ赤にしながら部屋から出ていくの背中を無言で見送りながら、再び銃に視線を下ろす



「まさか…な」

誰にも聞こえない呟きを吐き出し、ソファに身を委ねて目を閉じる

廊下から聞こえるの絶叫は聞こえなかったことにした















『あら、どうしたのー?』

『ボスが…かっこよかったの!』

『は?』

『銃持ってこっち見て笑ったの!』

『うん』

『かっこいいけどかわいいの!』

『ふーん…』

『それでね、ボスがね!ボスがね!』

『…はいはい』



俺も君に撃ち抜かれて、心臓なんて止まってるんだ















(銃口の先は貴方だけ)