「ねぇ、パパ一緒にお喋りしましょう?」
無邪気に笑うキールの問い掛けに、ウィルは困った顔をしながらも渋々承諾した
「お喋りは分かるけど、これは何かな?」
「知らないの?」
「いや、知ってるけど…」
キールがウィルに差し出したのは、カラフルな紙コップで作られた可愛らしい糸電話
久しぶりに見た…と心の中で呟いて、差し出されたそれに目を向ける
「これ、凄いのよ!遠くにいてもお喋り出来るんだから!」
うふふっと楽しそうに笑うキールを見て、ウィルも少しだけ頬が緩んだ
「そっか。キールはこれで俺とお喋りがしたいのかな?
「うん!私が奥の部屋に行くからパパは此処から動かないでね!絶対よ?」
「はいはい」
何度も自分の方を振り返りながら、キールは奥の部屋に消えた
『パパー!聞こえる?』
不意に、自分の手元から声が聞こえた
その声に少し驚いた自分に苦笑して、ウィルは糸電話を口に持っていく
『聞こえるよ』
『凄いわ!パパの姿は見えないのにお喋り出来てる!』
紙コップ越しにキャッキャとはしゃぐキールの様子が目に浮かび、心地良い感覚に支配される
『ねえ、キール』
『なぁに?』
『幸せだね』
『そうね』
顔は見えないけど、声色で彼女の気持ちが手に取るように分かる
きっと自分の気持ちもバレバレなのだろうけど…
『ねえ、パパ』
『何かな?』
『幸せだけど、つまらないわ』
『え?』
『………』
突然、キールの声色が先程とは違うものに変化する
沈黙に支配された部屋では、自分の呼吸すら喧しく聞こえた
「だって…パパが見えないもの」
そんな言葉が耳に届いた瞬間、背中に重苦しくも暖かい感覚
「…そうだね」
「パパの声だけじゃ寂しいわ」
「俺も声だけじゃ嫌だな」
「全部じゃないと寂しくて死んでしまうかも」
「じゃあ、俺が傍に居ないといけないね」
「ええ、そうよ」
「ずっと一緒だよ」
「約束よ?」
「うん。約束」
きっと不思議な関係だと思う
ウィルは、少し考えた後にキールの方を向いて優しく抱き締める
突然のことにキールは目をぱちくりさせながらも、嬉しそうに笑ってウィルの胸に顔を埋める
ずっと一緒に居ようね
ずっと一緒に居てね
ねえ、もし君がこの子を見つけることが出来たら
それはきっと、とても素敵なことだと思うんだ
もしかして、今も俺たちを見て笑っているのかな…