目の前が紅に染まって
動かない君を想いながら
咽喉が潰れてしまう迄
君の名を呼び続けた
目の前に浮かび上がる光景を認めたくないから
赤みを失い始めている唇から俺の名が紡ぎだされる事を祈って
君を抱き締める事しか出来なかった
―ザンザス…。
「…っ!!!」
失った筈の声を感じて身を起こせば、暗闇に全てを支配される感覚
紅に染まる腕と、苦痛に顔を歪める人
その人が目の前で深紅に染まる瞬間
「夢…か。」
意識が覚醒するのに酷く時間が掛かる。
乱れた呼吸を整えて隣を見下ろせば、そこに居るのは光を与えてくれた最愛の人。
その人を見て少しずつ現実が見えてくる。
全てが嘘だった事を早く理解したくて、意識を覚醒させようと手元に置いてある水を口にしたが、効果は無く目の前が僅かに霞んだ。
月に照らされている人は、まるで生気を失ったかのように眠り続けている…
「…。」
早く真実を受け入れたくて
「早く起きろ…」
君が居ない世界なんて望んでいないから
「起きろ…っ!!」
全てを失っても君だけが欲しいと願い続けて
「…」
あの光景が消えないから
「ん…ザ、ン…ザス?」
「…」
「どうしたの?」
「…。」
その存在を確かめるように
「ちょっ…ザンザス待…っ!!」
縋るような思いで
「…っ、ん」
愛しい君に何度も口付けを繰り返した
「…ザンザス」
「何だ?」
「泣いてる…の?」
君の感触を感じて
必死に追い求めていたら
自分が涙を流している事にすら気付かなかった。
「…泣いてねぇ」
「嘘吐き」
「嘘じゃねぇよ」
「はいはい」
こんな当たり前のやり取りさえ愛しく感じてしまう自分は、もう手遅れかもしれないけど
君の隣に感じる安息の代わりになるものは、オレの世界に存在しない。
「ザンザス…」
「何だ?」
「大丈夫だよ」
「…」
「ずっと傍に居るから」
「…」
「ザンザスは強いんだから」
「」
「私は…ずっと一緒だよ。」
オレが無意識に望んでいた言葉を、こうやって簡単に紡ぎ出せるのは恐らくだけ…
今日は少しだけ甘やかしてやろうと思って、腕を掴んで引き寄せれば縮こまり服の袖を握り締めていた。
「…当たり前だ。」
「そうですか。」
「…風呂入るぞ。」
「行ってらっしゃーい。」
「も入るんだよ。」
「…さっき入ったから。」
「"ずっと一緒"なんだろ?」
先程の口から発せられた言葉を繰り返してみる。
それを思い出したのか、顔を赤らめて俺の腕から逃れようと暴れ始めた。
「逃がさねぇよ。」
「うわっ!犯される!!」
「いつもの事だろーが。」
「黙れこの強姦魔!!」
「同意の上だ…。」
何があっても離さないと誓ったから
君が居ないと、生きる事すら忘れてしまいそうだ
(君だけに、溺れた)