そろそろ眠ろうと思って意識を手放そうとした直後に、放置していた携帯電話から聞き慣れた音が響く。
ディスプレイには見慣れたの文字。
普段なら緩んでしまう頬も今日ばかりは冷静だった
少し電話に出ることを悩んだが、一向に鳴り止みそうになかったので渋々着信ボタンを押す。
「何の用だ?」
「用が無いと電話しちゃいけないの?」
電話越しに聞こえるの声に安心感を覚える。
こんな状況にも関わらず暢気な奴だ…僕も人のことは言えないが…
「用が無いなら切るぞ。明日も早いだろ。」
「…宿題やったの?」
「当たり前だ!」
「問題分からないって私に連絡してこなかったよね?」
「………」
「紅葉の嘘吐き」
「何だと?」
少し不快な声色になったが気にしない。
確かにいつもなら宿題のことでに電話して教えてもらったりもしたが…
ボンゴレに全てバラしてしまった以上、明日から僕達はもう普通の中学生には戻れない
「…紅葉は明日から学校来ないでしょ」
「アーデルハイトに聞いたのか?」
うん、と呟くの声はいつもの明るい声とは正反対で思わず息を飲む。
はアーデルハイトと昔から仲が良かった
シモンと関わることもあったし、僕達の素性も理解していたから明日のことを知っていても不思議ではない。
しかし寝ようと思っていたこのタイミングで電話してくるのが心配性ならしいと言うか何と言うか…
「紅葉も戦うんでしょ?」
「当たり前だろ。僕は負ける気なんて更々無いが…」
「そんなの分んないじゃん」
「僕が負けると思ってるのか?」
「勉強だったら分からないね」
クスクス笑ってるの顔が容易に想像出来て、思わず笑みが零れる。
明日からこんな風に笑うこともないと考えると、この時間が以前より愛しく感じた。
「もう学校には来ないの?」
「どうだろうな…」
「アーデルハイトが来ないと寂しい」
「そうか」
「炎真もらうじもジュリーもしとぴっちゃんも薫も来ないと寂しい」
「………」
「御バカ様が勉強に乗り遅れるのが心配」
僕だけ扱いが酷いことには目を瞑る。
結局、は僕達シモンのことが本当に大好きで心底心配なんだと思う。
それが長所であって恋人である僕を悩ませる要因でもあるんだが
「ちゃんと勉強するんだよ」
「…分かった」
「ご飯も好き嫌いしないで食べてね」
「ああ」
「紅葉」
「何だ?」
「…死なないよね」
「さあな」
僕の返答に息を飲んだが容易に想像出来た。
泣いてるかもしれないと思ったが、今の僕には君を慰める術なんて見当たらない。
言葉でいくら慰めたところで、明日から僕達は居なくなるのだから
「もう寝ろ」
「紅葉…」
「夜更かしすると体調を崩すぞ」
「…うん」
「、おやすみ」
「………こーよー」
明らかに泣いてるだろう声で僕の名前を呼ぶ。
いつもなら取り乱すところだが、今日は酷く冷静に彼女が泣いてることを実感する。
「寝るまで電話切らないで」
「お前そう言ったら絶対寝ないだろ。駄目だ。」
「心配してくれるの?」
「当たり前だ。」
「…やっぱり紅葉好き。大好き。」
「…結局、僕だってが好きで仕方ないんだ」
「うん、ありがと。おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
電話が切れた直後に膝を抱えて泣いている彼女の姿を想う
きっと僕の名前を呼びながら、明日は学校を休んで泣き崩れているんだろう
昔から一人が嫌いで、友達だけど僕達の仲間でないと自覚していた彼女は、様々な方法で僕達を繋ぎ止めようと必死になっていた
僕達は、そんなのことが可愛くて大好きで仕方が無かった
そんな人を悲しませることしか出来なくて突き放そうと思ったのに
弱い僕には出来る筈も無かった
結局、最後には甘やかして、また離れられなくなる
僕が居なくなることを悲しんで泣いている彼女が愛しいなんて、どうかしてる
自分自身に悪態を吐きながら、もう声も届かない携帯電話を握り締めて布団に潜り込んだ
僕が死んでも泣くことだけは許さない
(結局、帰りたい場所は君の隣)