「寒い寒い寒い!」
白い息を吐き出しながら雪が降る空を見上げて、は王子に擦り寄ってきた
動きにくいとか、歩きにくいとか、別にそんなことは思わない
寧ろ近くにを感じられるから心地良くて落ち着く
「そんなに寒がってたら明日出掛けられないよ?」
明日は王子の誕生日
前々から2人に過ごす約束をしていたから釘を刺すようにに言い聞かせる
「屋敷でいいじゃん」
てっきり出掛けると思っていたオレの考えとは裏腹に我儘なお姫様は自宅待機を希望してきた
「…屋敷?」
「ダメ?」
「…別にいいけど」
オレの返事が予想外だったみたいで、は一瞬驚いた様子だったけど、すぐに笑顔になって明日のことを色々と考えているみたいだった
「プレゼント楽しみにしててねー」
「がプレゼント?」
「それはねーよ」
「………」
「ご、ごめんなさい」
「うしし」
慌てた様子で謝ってきたけど、明日のお仕置きは決定済み
そんなことは微塵も理解していないは屋敷デートが気に入ったみたいで、オレを引っ張りながらスキップで屋敷の門を潜り抜けた
「…ってわけだから、屋敷にいる奴は明日全員立入禁止にしてくれる?」
が先に部屋に戻った頃を見計らってオレはボスに事情を説明する
ボスも何だかんだ言ってには甘いし、一緒に会話を聞いている馬鹿な幹部に促されたら納得してくれると確信してた
「…勝手にしろ」
まあ、これは王子の予想通り
「じゃあ明日はボスの奢りでパーッと遊びましょうよー!」
「奢りならミーも行きたいですー」
「う゛ぉおい!カジノでも行くのかぁ!」
「テメェは自腹で行け」
「う゛ぉ…」
馬鹿な幹部の馬鹿騒ぎに巻き込まれる前に、オレはの待つ自室に向かう
後ろからは相変わらず怒号と悲鳴が響き渡っていた
「…あれ?」
自室のドアを開けて、奥のベッドに視線を向ける
「グー」
さっきまで誕生日までの時間を数えながら口笛なんか吹いていた恋人が、静かに寝息をたてて眠っていた
「え、何で寝てんの?」
「グー」
オレの呟きは部屋に響くだけで、目の前からは寝息しか返ってこない
「去年は無理矢理起こしたクセに…」
「むー」
少しムカついての頬を引っ張りながら文句を吐く
そうするとは顔を歪めてオレの手から逃れるように、身を丸めて布団を深く被る
「うしし、明日覚悟しといてね?」
「むにー」
幸せそうに眠る瞼に軽く口付けて、ベッドに入り込んで複雑な気分で就寝
まあ、そんあことより明日のことを考えると、笑いが止まらないんだけどは爆睡状態で全然気付かなかった
「それ取ってー」
「はいはい」
「あ、あれも持ってきて」
「んー」
「んで、ちゅーして?」
「却下」
「今日オレ誕生日なんだけど」
「う…」
結局、王子も早く寝たから朝早くから目が覚めちゃって暇だからを叩き起した
昨日ボスに頼んだおかげで屋敷には誰も居なかった
は不思議そうにしてたけど、用事があるって言ったら納得してた
「するの?しないの?」
俯いて無言を貫くを壁に追い詰めて尋問状態
こーゆう状態が好きなオレも変わってるけど、こんな状態を受け入れるも変わってる
まあ、だから何年も良い感じで付き合ってるんだけど
「いや、後で…」
「後で?」
「…うん」
「まあ、いいけど」
あまりにも恥ずかしそうにしてるから、何か王子の方が照れ臭いんだけど…
「じゃあ、オレとするか?」
「「は?」」
聞き覚えのある嫌な声のする方向を見れば、自分と似通った顔が笑ってた
「…ジル」
「え、あれ、ジル?」
あ、何かが嬉しそうなんだけど、すげームカつく
「今日はオレと2人で過ごすんだから帰れよ」
「は?出来損ないが何言ってんだ?」
昔から、こいつの存在自体が本当に癪に障る
お互いそんなことばっかり思って生きてきたから今更な話だけど、はそれが嫌みたいだ
だからって仲良くしようなんて絶対思わないけど
「誕生日なんだから喧嘩しないでよ」
「じゃあ、オレとするか?」
「しません」
「オレ?」
「いや、後で…?」
「出来損ないには出来てオレには出来ねぇの?」
「うーん…」
「困らせるならさっさと帰れよ」
そう言い放ってを抱き寄せればさっきと同じで恥ずかしそうに俯く
こいつが居なければ好き放題出来たけど、そんなをこいつに見せるのは嫌だから我慢
ピピピ…ピ…ピピ…
「…ん?」
「どーしたの?」
奇妙な機械音が部屋に響いてジルが突然顔を歪める
「白蘭様から仕事の司令だ」
「誕生日なのに?」
「さっさと帰れよ」
「ベルと違ってオレは優秀だから忙しいんだよ」
「もう1回死ね!」
背を向けて窓から飛び出そうとするジルにナイフを投げたけどギリギリのところで避けられた
「、夜にまた会いに来てやるから」
「来るなって」
「お前はさっさと寝てろよ出来損ない」
「うっせーよ!」
「じゃあな」
手をひらひらさせながらジルは風のように立ち去った
「…何か去年も見た光景」
「デジャブ?」
…そこは深く考えないことにした
「、おいで?」
「う…」
ソファに寝転がってを呼べば素直に腕の中に納まる
「王子眠くなってきた」
「んー…」
「少し寝よっか?」
「ん…」
同じく睡魔に襲われたの頭を何度か撫でれば、オレより先に寝息をたて始める
「っつーか、まだプレゼント貰ってないんだけど…」
「グー」
「ま、いっか」
「うにー」
「おやすみ」
昨日と同じように瞼に軽く口付けて、オレも意識を手放す
ソファが少し狭いから昨日よりも暖かくて心地良かった
「帰ったわよ〜♪って、イヤ〜ン」
「うわー自慢ですかーミーもセンパイのポジションに行きたいんですけどー」
「ゔぉおい!!何だぁ?」
「でけぇ声出すんじゃねえ!」
「ゔぉ…」
「ボスも煩いですよーが起きたらどーするんですかー」
「オ、オレもいつかボスと…」
「気色悪ぃ妄想してんじゃねぇ!」
「ぐはっ!!!」
無駄に煩い奴等の声に気付いてたけど
たまには見せつけるのも悪くないと思ったから
オレは狸寝入りでを少しだけ抱き寄せた
(Buon compleanno!)