日付が変わるだけで特別な気分になるなんて、不思議だと思う

それでも気持ちは抑えられなくて、足速に彼の部屋に向かってしまう自分を止められないのが現実





「ベールー」

ノックもしないで彼の部屋に入れるのは、きっと私だけの特権

「………」

扉を開いた瞬間に陽気な声が重苦しく感じる程の静寂

「…ベル?」

人型に膨らむベッドに近付いて様子を伺えば熟睡中の王子様が1人

「…寝てる」

こんな無防備な姿が見れるのは、きっと世界中で私だけ

優越感を覚えて思わず頬が緩む



「起こしたら、やっぱり怒るかな…」

時計を見れば0時を迎える1分前

特別な日の始まりになりたいのは我儘だと思うけど、仕方ない

意を決して熟睡中の王子様を起こそうと行動に移る




「ベル起きてー!」

思い切り毛布を剥ぎ取った後に、ゆさゆさ揺らして起こしてみる

「んー…」

「起きて起きろ起きれ!」

「…うるさーい」

ベルは寝呆けた様子で起き上がって欠伸をしながら私を見た





「…どーしたの?」

「日付変わって誕生日!」

「へ?」

「おめでと!」

まだ寝呆けているのか、私の言葉に首を傾げて考え込む






「あ…忘れてた」

全く覚えていなかったみたいで、少し間の抜けた返事が返ってきた



「おめでとー!!」

「…ありがと」

満面の笑みで祝福すれば、少し照れ臭そうな返事

少しぶっきら棒だったけど、喜んでもらえればそれだけで嬉しい










見付けた!」

ベルの返事に笑いが込み上げていた直後、同じ顔が勢い良く部屋の扉を開いて侵入してきた


「ジル!?」

「…勝手に入ってくんなよ」

の部屋行ったら誰も居ねーから仕方なく来たんだよ」

寝呆け眼のベルと、無駄に元気なジルが目の前で火花を散らす

「ジルどーしたの?」

「あ、そうそうオレの誕生日祝ってもらいに来た」

「そっちでパーティーやるんじゃないの?」

「くだらねーパーティーよりと2人が良いんだよ」



ししし、と楽しそうに笑う

2人の笑い方が同じことを思い出して再び私も笑いが込み上げる



「残念ながらはオレの誕生日を祝うから忙しいんだよ、早く帰れ」

「うわっ!」

その瞬間に後ろからベルに思い切り引っ張られて腕の中に閉じ込められる




「そんな失敗作より、オレの誕生日の方が重要だろ?」

「…ベルと一緒にプレゼント買いに行くから」

「は?」

「誕生日だからプレゼント買いに行くの!何あげるか思い付かなかったからベルに選んでもらおうと思って…」

「じゃあにも何か買ってあげる」

「誕生日の意味無いじゃん」

「…何それ、オレには買ってくれないの?」

「何か欲しいものあるの?」

不貞腐れたジルに疑問を投げ掛けると少し考える素振りを見せた後に腕を掴まれた



「欲しいものあった」

「何?」

が欲しい」

「気安く触るな早く死ね」

ベルに抱き付かれた状態でジルに腕を掴まれてる現在の状況…正直言って少し辛い












「…ジル様」

「あ、ゴリラ来た」

無言で睨み合う2人に挟まれた状態に困り果てていると、扉から申し訳なさそうにゴリ…オルゲルトが顔を覗かせた

「そろそろ戻らないと流石に…」

「まだ大丈夫だろ」

「しかし門限を破るのは…」

「…分かったよ、帰る」

「早く帰れ一生来るな」




悔しそうな顔で私の腕を離して扉に向かったジルは何かを思い出したように唐突に勢い良く振り返った



「朝になったら来るから」

「へ?」

「来んな」

に会いに来るんだからベルに文句言われる筋合いねーし、7時に起きろよ」

「え、早ッ!!…てゆーか、勝手に…もう居ないし」

勝手に時間を指定して手を振ったかと思えば、既にジルとオルゲルトの姿は見当たらなかった





「………」

「………」


先程の騒がしさが嘘みたいに、怖いくらいの静寂が広がる



「んー?」

「…もっと祝って」

少し俯いて呟いた一言が可愛くてベルの腕から抜け出して向き合う態勢になる



「誕生日おめでとー!」

「…全然足りない」

「眠くなるまで言ってあげる」

「朝まで寝かせないから大丈夫」

無邪気な笑顔が悔しくて、ティアラの無い頭をぐしゃぐしゃ撫で回して毛布に潜り込んだ










次の日、涎を垂らして爆睡してる私の横でベルとジルが壮絶な言い争いをしてたとかしてなかったとか







(君が生まれた日に感謝!)